貝原益軒が説いた『養生訓』の一番大切な部分は、生命観です。生命観とは、命の大切さや生きる意味についての考え方のことです。益軒は、命が自然や宇宙の力によって支えられていると考えていました。つまり、人間の体も自然の一部であり、自然との調和が大切だという考え方です。
●命は自然からの贈り物
益軒は、人間の体は天地(自然)と父母から受けた恵みでできていると言っています。これは、命そのものが大自然の一部であり、私たちはその恩恵を受けて生きているということです。だからこそ、自分の体を大切にすることは、自然や父母への感謝の表れだと考えたのです。
この考え方は、自然と自分を切り離して考えるのではなく、自然とのつながりを感じながら生きることを重要視しています。私たちが健康でいるためには、自然の法則に従って生活し、体と心を整えることが必要だという教えです。
●体と心の調和
『養生訓』の中で最も重要なことの一つは、心と体の調和です。益軒は、体が健康であっても、心が乱れていると本当の健康は得られないと考えました。逆に、心が穏やかであれば、体も健康を保つことができると言っています。
現代の私たちも、ストレスや不安が体に影響を与えることをよく知っています。益軒は、心を穏やかに保つことが、健康を維持するための大切な方法だと教えているのです。日々の生活の中で、心を静める時間を持つことが健康のために必要だと説いています。
●生命観の違いがもたらす養生法の違い
益軒の生命観は、現代医学とは大きく異なります。現代医学では、体を別個のものとして捉え、病気を治すための手段として薬や治療法が用いられます。一方で『養生訓』では、体だけでなく、心や精神、そして自然との調和を重視するため、予防の考え方が中心になります。
この違いは、現代医学が体を「治療すべき対象」として捉えるのに対し、養生訓は体を守るべき存在として捉え、病気を予防するために日々の生活習慣や心の持ち方を大切にするというアプローチを取っている点にあります。
●まとめ
『養生訓』における生命観は、命は自然の一部であり、心と体の調和が重要だという考え方に基づいています。現代医学と違って、益軒は病気を防ぐだけでなく、健康な体と心を作り上げる方法を教えてくれています。この生命観が、後の『養生訓』の具体的な健康法にどのように生かされているのかは、次の章でさらに詳しく見ていきます。